記事紹介:閉校となった小学校と街づくり

藻谷氏の直近の取り組みの紹介です。
今後も閉校されるインフラは増えていくのは確実で大阪・ミナミだけの問題ではありません。
このフォーラムの取り組み方、今後は引き続きウォッチしたいですね。

▽引用▽
旧精華小など取り壊さず利益を フォーラムで示唆
2012年8月27日

 大阪・ミナミにある旧市立精華小学校と幼稚園の保存、活用の可能性について考える「SEIKA市民フォーラム2012」が26日、天王寺区民ホール(同区生玉寺町)で開かれた。民間の寄付によって1929年に建てられた貴重な建築の今後について、活発に議論が交わされた。
旧精華小学校舎の保存、活用について議論するパネリストたち=26日午後、大阪市天王寺区同校の卒業生や建築家らでつくる「精華校園利活用事業コンソーシアム」が主催した。

日本総合研究所調査部主任研究員の藻谷浩介さんは基調講演で「モノからライフスタイルの消費となった現在にふさわしい『街並みがきれいな空間』が必要。歴史建築の復活事例は無数にあり、取り壊さない方がもうかる」と強調、今後の可能性を示唆した。

パネルディスカッションでは、1926年に建設された建物を活用した商業施設「新風館」(京都市中京区)の佐々木伸也副館長ら、5人のパネリストがそれぞれの立場から利活用法を提案、活発な議論が展開された。

同コンソーシアムは現在の校舎と新施設に、カフェやショップ、ミュージアムを取り入れ、にぎわいを創出する「大大阪モダンタイムズスクエア」を提案しており、「今後は毎月、フォーラムを開催し、加速度的に議論していきたい」としている。

出典:大阪日日新聞
URL:http://www.nnn.co.jp/dainichi/news/120827/20120827023.html
△引用△

書評:『藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?』

第三回講演会の予習第2弾です。
『藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?』の書評を公開します。
今回も執筆はASRIの上石君が担当してくれました。

藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?

藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?

■100字要旨
経済成長率と現実の幸福感にはズレがある上、経済成長には限界効用逓減の法則が成り立つ。そのため、ある程度豊かになった日本は国家運営の目標を経済成長から幸せな暮らしに移行し、物質と精神的満足の両立を図るべきだ。

■経済成長率と実態には四重のずれが生じる
経済成長率と幸福感には比例関係があると主張する人が多い。しかし、実際に経済成長していない全国の中山間地域に行くと、豊かに楽しそうに生活している人達が大勢いる。このような経済成長率と実態のズレはどうして生じるのだろうか。第一に、経済成長率の計算は多数の仮定の積み重ねの上に成り立っているので、現実と一致する方が難しい。第二に、経済成長率の計算が仮に正確にできたとしても、それは平均値の話なので、その構成員である個人個人の富の増加ペースとはずれている。第三に、経済成長率が本当に高い地域に成長を実感できている人がいたとしても、そこで測っているのはフローであって、過去にその人がどれだけストックを蓄積しているかという話ではない。第四に、経済的にストックがあってかつ成長していたとしても、その人が人間的に幸せになれるとは限らない。このように、数字と実態の間には四重のずれが生じてしまう。

■いつまでも成長しなければならないわけではない
経済学には限界効用逓減という一般則がある。発展途上でモノが不足している社会では、ある程度までモノが増えていくことが嬉しい。年収が伸びてくることで個人も社会もどんどん豊かになる。しかし、ある程度のポイントを過ぎたら、それ以上年収が伸びても豊かさの実感はさほど伸びなくなる。つまり、踊り場かゴールかは不明だが、ある程度落ち着くところまで日本は行ってしまったと考えられる。お金の成長だけを続けるよりも、今後は金銭換算できない価値を増やしても良いくらいまでに世の中が成熟してきたんじゃないかとも言える。ある程度全員が食えるところまでお金は貯まったのに、その後もこれまでと同じペースで経済成長していくのが目的だなんてカルト集団に近い。国家運営の目的は経済成長自体ではなく、みんなが幸せに暮らすことであり、この点を忘れたお金だけの成長の議論は、すべて極論になってしまう。

■物欲と精神的満足のミックスが日本の幸せ
一旦物欲まみれというステージをきちんと通り過ぎた後で、やっぱり物欲だけではしょうがないというところに至って初めて、次のステージに行ける。日本は物欲を通り過ぎるところまで来ているので、ブータン等にはできないような幸福度の指標を作成しても良いように思う。だけど、その際には日本人特有の妬み僻みの構造(日本には他人が落ちることによって自分が上がった気になる人が多い)があるので、それを排除する方法を考えないといけない。ある程度のモノの良さも分かった上で、モノ以外で精神的に満たされることが必要だ。恐らく、何かほどほどのミックスを我々は狙っているのだろう。ある程度赤字だけど、そんなに赤字を垂れ流してはいない海土町みたいな所と、ある程度儲かるけど文化性や幸福度が足りない豊田市のような所と、ほどほどの所をライフステージに応じてそれぞれ選んでいけるということが日本の幸せではないだろうか。

■斬新な点
山奥にカフェが誕生することは、渋谷に一軒カフェができるのと全く異なるインパクトを持つ。「そこにカフェができた」という噂が隣町にまで広まっている。だから、かなり遠い所からも車で乗り付けてきて、お洒落な雑誌も毎号そこで読めるし、自分の家に友達が訪ねてきた時もそこを紹介できる場所になっている。そういう場所で地域の若い人が居合わせると、テレビの話を一通りした後に、「私たちの町はどういう方向に行くんだろう」という話になったりする。そういう場所でワークショップをすると、一回目と二回目のワークショップの間にカフェでけっこう町の話題が共有されていて、その内容がいきなりすごく高いレベルまで行くことがある。なぜそうなるのかと言えば、カフェに良く集まる人が雑談をすることで、言わば非公式のワークショップが毎日積み重なるからだ。つまり、山奥のカフェはすごく公共性のある施設であると同時に、町の可能性を語る場にもなっている。

書評:『デフレの正体』

今回は藻谷氏を講師にお招きする第三回講演会にむけた書評をご紹介します。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

執筆は前回に引き続きASRIの上石さんです。
ちなみに上石さんは、他にも少子高齢社会についての書評を複数ブログで公開しています。
ご興味のある方はぜひ彼のブログものぞいて下さい。
日本は高齢化先進国

■100字要旨

生産年齢人口減少と高齢者激増による内需縮小が日本経済低迷の原因である。内需縮小脱却には、高齢富裕層から若者への所得移転、女性就労の促進と女性経営者の増加、訪日外国人観光客・短期定住客の増加が必要だ。

■国際競争とは無関係に進む内需縮小こそが日本経済低迷の原因

日本経済低迷の原因として国際競争力低下や海外景気悪化がしばしば指摘される。しかし、日本は世界同時不況化でも貿易黒字を維持した他、バブル期の4倍以上も所得黒字を計上しており、景気低迷の原因は国際競争に負けたためではない。それとは無関係に進む内需の縮小こそが、日本経済低迷の原因である。実際、戦後最長の好景気にも関わらず、国内新車販売台数・小売販売額・貨物総輸送量・一人当たり水道使用量といった内需を代表する指標は総じて低下した。内需縮小の犯人として地域間格差をやり玉に挙げる報道が多いが、地方だけでなく都市も内需不振である。例えば、90年度を100とした06年度の小売販売額の水準は、青森が98、首都圏1都3県が96、都心23区が90と、いずれも100を下回っていた。青森の方が都心23区よりマシな水準で推移しており、少なくとも世間で言われる「地方が衰退して東京は一人勝ち」という事態は発生していない。

■生産年齢人口減少と高齢者激増が内需縮小の理由

日本の内需縮小の理由は生産年齢人口減少と高齢者激増の2点である。生産年齢人口とは経済学的に定義された現役世代の数であり、15-64歳人口が該当する。恒常的に失業率の低い日本では、景気循環ではなく生産年齢人口の波、つまり毎年の新卒就職者と定年退職者の数の差が、就業者総数の増減を定め、個人所得の総額を左右し、個人消費を上下させてきた。すなわち、生産年齢人口減少に伴う就業者数の減少こそが、平成不況の正体である。生産年齢人口減少の裏側で、高齢者の絶対数は増えているのだが、高齢者は物質面である程度満たされているため、モノに対するウォンツが少ない。最も強いウォンツは将来健康を損なった場合の医療福祉サービスであるため、病気の可能性に備えて貯蓄をする。しかし、高齢者はいつ病気をするか、何歳まで生きるか不確実なため、死ぬ瞬間まで一定の貯蓄を残す傾向がある。それ故、高齢化も個人消費の低迷に繋がっている。


内需縮小脱却の三つの方法(若者への所得移転、女性就労促進、外国人観光客増加)

第一に、高齢富裕層から若い世代への所得移転を促進すべきである。貯蓄を持っているのが高齢富裕層ではなく若い世代中心であれば、個人消費の総額は今より増加する。なぜなら、消費性向は世代によって大きく違い、子育て中の世代が最も高いからだ。具体的には、

年功序列賃金の弱体化や生前贈与促進が考えられる。第二に、女性就労の促進と女性経営者の増加を図るべきだ。現役世代の専業主婦の4割が働くだけで団塊世代の退職が補える。内需縮小の処方箋として外国人労働者導入を主張する人がいるが、目の前の教育水準が高くて、就職経験が豊富で、能力も高い日本人女性をまずは活用すべきだろう。なぜなら、日本語教育社会福祉制度といった追加コストがかからないからだ。第三に、訪日外国人観光客・短期定住客の増加に取り組むべきだ。外国人観光客を増やし、国内で多く消費してもらうことほど、副作用なく効率の良い内需拡大策は見当たらないだろう。


■斬新な点:少子高齢化という単語の使い方

上述の生産年齢人口減少と高齢者激増の同時進行を少子高齢化というズレた言葉で表現する習慣が全国に蔓延している。しかし、少子高齢化という単語は、少子化(子供の減少)と高齢化(高齢者の激増)という、全く独立の現象を一緒にしているとんでもない表現であり、子供さえ増やせば高齢化は防げるという誤解の原因にもなっている。更に、最重要課題である生産年齢人口減少を覆い隠すという欠点もある。従って、著者は少子高齢化という言葉は絶対に使わないようにしており、この単語を発する識者やこの単語が書かれた論説は、事柄の全体像が良く分かっていない人ということで信用していない。実際、少子高齢化という言葉を「なんとなく日本の問題点を指す言葉」として使う人は多い。そのため、少子高齢化という言葉の使用頻度や使い方によって、少子化・高齢化・人口減少・生産年齢人口減少といった問題を論じる識者の理解度を一定程度判断できるだろう。

第三回講演会準備を始めます!

昨日から第三回講演会の準備を始めました。

第3回: 9月7日(金) 19:00 〜 21:00
 「人口減少と日本経済の進路」
  藻谷浩介(日本総合研究所調査部主席研究員)

藻谷先生といえば、ベストセラー『デフレの正体』で有名な方です。
『デフレの正体』はタイトルだけ聞くと完全なマクロ経済学の著作のように思えますが、実はこれも少子高齢社会につながる著作なのです。
(藻谷氏の詳細プロフィールはこちら
講演会の予習エントリーとして、近日中に『デフレの正体』

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

の書評をアップします!

さらに、藻谷先生の最新の著作もカバーする予定です。

藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?

藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?

こちらはコミュニティーデザイナー山崎亮氏との対談です。
(山崎氏の詳細プロフィールはこちら)
力を失いつつある地方経済の現状や、地方活性化のための打ち手についての議論が展開されています。

三連休最終日となりましたが、みなさんもお時間があれば是非ご一読下さい!

第二回講演会の模様

先日は、講演においでくださり、誠にありがとうございました。
ご講演の内容を簡単にご報告させていただきます。
今回も執筆して下さったのは、auraの伊東さんです。講演後のグループディスカッションでは発表もされて積極的に参加して下さいました。いつもありがとうございます。

●講演会要旨
日本の年金の問題などは実は少子化高齢化の問題であること。また、少子化の主な原因は未婚化であるということが明らかにされました。

■なぜ日本人は結婚しなくなっているか?
社会の変化にも関わらず、「結婚後の家計は夫が支えるべき」(男:70.4%女:72.3)「子供が小さいうちは母親が育児に専念すべき」(66.6%)【2009年 明治安田生活福祉研究所 結婚に関する調査】など、伝統的家族意識/性役割意識が残っているためである。高度成長期には、夫の収入が安定し、上がり続ける見通しがあったので、「夫は仕事、妻は家事」に専念することで、豊かな生活が実現できた。しかし、現在は若年男性の収入が、上の年代に比べ低下しているため、実際にそのような生活をするのは難しくなってきている。非正規社員の収入は正社員に比べて、不安定であり、低い。そのため、主婦願望はあっても経済的に依存できる男性が減っている。さらに、結婚相手が見つかるまで親元で待つ「パラサイトシングル」が多く(20-34歳 若年未婚者の約半分)、男女交際が活発ではない。

■どのような政策をとるべきか?
若者が将来の生活の見通しを持てるようにするべきである。正規、非正規の格差を是正し、女性の正規雇用を促すべき。雇用制度改革としては、長時間労働の規制、働く時間の自由化、短時間正社員、再就職などがある。社会保障改革としては、正社員の妻(主婦、パート)優遇を廃止すべきである。また、結婚相手を探しに行く「婚活」支援も必要である。
※ヨーロッパをモデルにした、出産無料、保育所整備、仕事の継続支援はそもそも結婚していない人には効果がない。ヨーロッパでの少子化は、意識が個人化(自己実現の重視)したために生じている。若者は、親から独立して生活することが一般的であり、未婚のカップルでの同棲への許容度、選好が高い。男女交際(未婚者の恋人保有率、性体験率)も活発である。また、特に女性で仕事での実現意識が高いため、「夫は仕事、妻は家事」意識が低い。)

●グループディスカッション
20代〜70代の年代のグループに分かれて、「自分の将来設計の中で、結婚をどう位置づけるか」「家族をつくるとしたらどういった価値観を大切にするか?」という設問を軸にディスカッションを行いました。各グループでは、「今はやりたいことがあるから結婚はまだできない」(20代男性)「収入で男性は女性から選ばれているが、お金があれば幸せなのか?」(20代男性)「自由なことをみんながやっていた時代に出産・子育てをしたため、地域の友人や夫から助けを得ることができた」(60代女性)など未婚の方は将来を考え、既婚の方は経験を振り返り、議論が大いに盛り上がりました。

●講演会の感想
講演会全体を振り返り、私は一人の若者として、世代間問題でもある、格差(若年層の相対的収入の低下)の問題などを世代間の合意と協力で乗り越え、「誰もが子供を産み、育てられる社会」を実現するまでの道のりはまだ遠いと感じました。しかし、今講演会がそのための確かな一歩であったのではないかと思います。

結婚式や披露宴をしたくない!?:ニュース転載

こんな記事が飛び込んできたのでご紹介です。

女性なら誰もが憧れる純白のウェディングドレス…と思いきや、挙式しないカップルは意外に多いとか。しかも女性の方がやりたがらないケースも少なくないよう。教えて!gooにもその手の相談が割と恒常的に寄せられている。

「結婚式や披露宴をしたくない」

「結婚式は女性の憧れではないのか?!」

■大事な婚約期間を結婚式の準備に費やしたくない

最初の質問は20代の女性から。「花嫁衣裳を着たくない」「披露宴を見るたびに大金をかけたすごく壮大な茶番劇だと思ってしまう」などの理由で、結婚式や披露宴に抵抗があるという。一方、男性の質問者の方は、容姿も礼儀も申し分ない婚約者がなぜ式を拒絶するのか分からない…と戸惑った様子。

でも意外なことに、「私も披露宴はしたくない」という女性はたくさんいた。多くは友人などの式に出席した体験に基づいているよう。

「友人の結婚式に行くたびに『ああー、あんな恥ずかしいことできない…』と思ったものです。友人がするのは、まったくOKなんですけど、自分に置き換えると穴に入るくらい恥ずかしい思いをする気がしたのです」(pionyさん)

「自分の中の結婚に対するロマンチックな部分が、式や披露宴によってぜんぜん満たされない、むしろひどく傷つけられるような気がしました」(deh80さん)

「地味でも、入籍だけでも十分幸せになれると思いますし、2人が一緒になる前の大事な婚約期間を披露宴の打ち合わせなどであくせく過ごすことに抵抗がありました。そういう女性も最近はたくさんいるんじゃないかなあ?」(sora999さん)

「あなた誰?っていう遠い親戚から、会社の上司、人数あわせで呼ばれた友達…本当に喜んでくれてる人ってどれぐらいいるんだろ…って思ってしまいます」(donguri340さん)

一方、両親や親戚のためと割り切って式を挙げたカップルもいる。

「たった数時間の我慢でお互いの親戚一同への挨拶と紹介が一度に済むので披露宴は合理的なシステムです」(rurinohanaさん)

「彼の両親の独断で、超豪華な結婚式&披露宴を挙げさせて頂きました(涙)本当に面倒で嫌だったけど、当日になったら、それはそれで楽しかったかな。後々、親戚や知人に私の事を覚えてもらえて(私は全く覚えてない)正直彼の身内に入って行くのは楽でした」(noname#78722さん)

■自分たちなりの結婚式を行うカップルも

そして、盛大にやるだけが結婚式じゃない…という実例も。

「写真だけは残そうということで、双方の家族を呼んで、写真を撮り食事会をしました。それが式代わりといったところです」(moon00さん)

「新婚旅行兼ねて海外で挙式しました。2人だけでした。私の妻も結婚式や披露宴に興味なしやる気なしでした。めんどくさいしお金がもったいない、という所でした。私も興味なかったんですが花嫁姿は見てみたかったんで話し合って新婚旅行に組みこみました。こういう妥協点もあると思います」(kule4さん)

どんな結論を出すにしても、婚約→挙式の準備へと自動的に進むより、結婚や挙式の意味についてじっくり話し合うことは、これからの2人にとってプラスになるはず。「2人の初めての共同作業」としても、ケーキカットよりずっと意味があるよね。

書評:『少子社会日本-もうひとつの格差のゆくえ』

第2回講演会の予習としてもう1本書評を紹介します。
これも作成はASRIの上石君です。
忙しい中ありがとう!

少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ (岩波新書)

少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ (岩波新書)

■(要約)
若年男性の収入の不安定化とパラサイト・シングル現象の合わせ技が日本の少子化の主因である。そして、少子化に対処するためには、出生率を上げる政策と、少子化に対応した社会を作る政策の両方が求められている。

少子化の現状:①総人口減少、②出生率低下、③未婚率急増、④夫婦出生率低下
2005年、日本の総人口が統計開始来初の減少を記録。合計特殊出生率(女性1人あたりが一生涯に産む平均子ども数)は1.26と過去最低を更新した。更に、未婚率が急増し、30代前半の男性はほぼ2人に1人、女性は3人に1人が未婚状態にある。結婚する人の減少という形で少子化が進むだけでなく、最近では夫婦一組あたりに生まれる子ども数の低下も始まっている。つまり、結婚しない人、結婚しても子どもをもたない人、そして結婚して子どもをもつ人への分解が進行している。一方、殆どの未婚者は結婚を望み、子どもをもちたいと思っており、既婚者も子どもを2人以上もちたがっている。なぜなら、社会が個人化すればするほど、信頼できる関係が必要となり、近代社会においてあらゆる関係のうち最も信頼できる関係は血縁や婚姻で成り立つ家族と信じられているからである。それでは、どうして日本で家族形成ができなくなってしまったのだろうか。

少子化の原因:若年男性の収入の不安定化とパラサイト・シングル現象
若年男性の収入の不安定化とパラサイト・シングル現象の合わせ技が日本の少子化の主因である。高度経済成長期には、殆ど全ての若年男性が将来収入見通しの安定と上昇を期待できた。また、結婚前の生活水準が低かったため、結婚生活・子育てへの期待水準も低かった。しかし、1975年以降、豊かな親の元で育ち、結婚生活や子育てに期待する生活水準が上昇する一方、低成長経済への転換により、若年男性の収入の大きな伸びが期待できなくなった。その結果、晩婚化、未婚化が始まった。加えて、パラサイト・シングル(親との同居により可処分所得が高くなった未婚者)の増加によって、結婚の経済的魅力が低下したことも少子化を促進した。1990年以降は、世界経済のグローバル化と非正規雇用の増加によって、若者間での収入格差拡大、若者の将来の収入見通しの不確実化が生じ、これが少子化に拍車をかけた。

少子化対策出生率を上げる政策、少子化に対応した社会を作る政策の両方が必要
少子化対策には「出生率を上げる」政策と「少子化を前提とし、それに対応した社会を作る」政策があるが、その両方が求められている。前者に関しては、①全ての若者に希望の持てる仕事と将来にわたって安定した収入が得られる見通しを与えること、②どんな経済状況の親の元に生まれても子どもが一定水準の教育が受けられ大人になることを保証すること、③格差社会に対応した男女共同参画を進めること、④若者にコミュニケーション力をつける機会を提供すること、が必要だ。後者に関しては、⑤労働力不足に対応するために女性や高齢者の就労率を上げること、⑥社会保障費の増加に対応するために全世代の拠出を増やすとともに高齢者の受給を減らすこと、⑦経済成長率低下に対応するために経済の一層の効率化や高付加価値産業の育成などによって一人当たりの生産性を上げること、が必要だ。

■この本の斬新な点
少子化の議論において、①お互いが結婚したいと思う相手に出会うこと、②子どもを育てるのに十分な経済力があること、というあたりまえの事実が無視されてきた。その理由は、結婚相手としての魅力や子どもを育てていくための経済力には格差があるが、政府や社会は格差の存在を認めたくないからである。少子化の第一のタブーは性的魅力を含んだ魅力格差である。男女が結婚するには、お互いが相手に結婚相手としての魅力を感じる必要があるが、この魅力には格差がある。第二のタブーは経済格差である。日本では収入の低い男性が結婚しにくいという事実を著者は何度も指摘してきたが、この事実を公表しようとすると新聞など様々なところからストップがかかった。第三のタブーはセックスの変化である。1980年頃から婚前・婚外のセックス関係の増加、夫婦のセックスレスの増加、という事実が生じているが、人口学の議論ではこの事実が考慮されないことが多い。


興味を持って下さった方は是非講演会にお越し下さい!